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若手の不安は、AI時代にどこへ向かうのか 〜古屋星斗さんの名著『ゆるい職場』から、新著『あの若手はどうして辞めないのか』へ

かず / Kazu | 

2026/10/10 00:09

Ensembleの最初の記事で、私は「一人の音には、限界がある」と書いた。今回から、その言葉どおり、キャリアに関する発信や研究に携わる方々を、具体的に紹介していきたい。最初に紹介したいのは、これから社会に出ていく若い世代の現実に、丁寧に向き合ってきた研究者、古屋星斗さんだ。

古屋さんの名著『ゆるい職場』が刊行されたのは、2022年。すでに4年前の本になった。その間に、世の中には大きな変化が加わっている。生成AIの普及だ。古屋さんは今年7月に新著も世に出した。この記事では、2冊の本をたどりながら、2026年の景色の中で、若手の不安をどう読み直せるのかを考えてみたい。

古屋星斗さんという人

古屋さんは、一橋大学大学院を修了後、経済産業省に入省し、産業人材政策などに携わった。2017年からは、リクルートワークス研究所で主任研究員を務めている。労働市場を分析しながら、次世代のキャリアや人材育成を研究している方だ。学校から社会への移行を支える一般社団法人スクール・トゥ・ワークの代表理事も務め、「学生から働く人へ」という橋渡しの現場に、研究と実践の両面から関わり続けている。

私がこの方の仕事に関心を持ったのは、これから学生の方々への支援にも取り組みたいと考え始めたことがきっかけだった。ミドルシニア世代を主な対象としてきた自分にとって、若い世代がいま実際に何を感じているのかを、データと現場の両方から知りたいと思った。

『ゆるい職場』が描いた不安

『ゆるい職場』は、2022年に中央公論新社から、中公新書ラクレの一冊として刊行された。

本書が扱っているのは、一見すると意外な現象だ。法制度の改革などによって、多くの職場は、以前に比べて働きやすい環境へと変わってきている。長時間労働は是正され、厳しい叱責も減った。にもかかわらず、若手の離職や、将来への不安はなくならない。本書は、この「働きやすいのに不安が消えない」という逆説を、豊富なデータをもとに丁寧に読み解いている。

特に印象に残ったのは、若者が抱えている不安の正体を、「甘え」や「忍耐力の不足」といった精神論に還元せず、職場環境の構造変化として捉え直している点だった。

負荷が下がり、叱られる機会が減ったこと自体は、決して悪いことではない。ただ、その結果として、自分がどれだけ成長できているのかを実感しにくくなり、「このままで、本当に大丈夫なのだろうか」という漠然とした不安が広がっていく。単純な世代論では見えてこない視点だと感じた。

新著は、問いを反転させる

2026年7月、古屋さんは朝日新書から『あの若手はどうして辞めないのか』を刊行した。新著の内容については、その問いの立て方だけでも、考えさせられるものがある。

これまで職場の関心は、「若手はなぜ辞めるのか」に向きがちだった。新著は、その問いを反転させて、「なぜ辞めないのか」を問う。中途採用が増え、転職が合理的な選択肢になりつつある中で、あえて会社に残ることを選んでいる若手には、どんな理由があるのか。本書は、12の「辞めない理由」を手がかりに、その解像度を上げていくという。

背景には、「静かな退職」という言葉への注目がある。若手と丁寧に接する職場は増えた。それでも、辞めてはいないが意欲は高くない、という若手の存在が課題になっている。会社に残っていることと、そこに納得して働いていることは、同じではない。新著はそこに目を向けている。

2022年に「働きやすいのに不安が消えない」と描かれた景色は、4年の間に、「辞めていないのに納得していない」という、より静かな形へと姿を変えているのかもしれない。

2026年、そこにAIが加わった

この4年間で、もうひとつ大きな変化があった。生成AIの普及だ。若手の仕事の入口がAIによって変わるのではないか、という声をよく耳にするようになった。企業は、実際にどう見ているのだろうか。

リクルートワークス研究所が2026年6月に公表した特別調査(調査時点は2月から3月)では、AIなどの影響で新卒採用数がどう変わるかを尋ねている。もっとも多かったのは「変わらない」で68.8%。「増やす」「減らす」は、それぞれ7.5%だった。少なくとも調査の時点では、採用数が急に縮んでいる状況ではない。

変化が表れつつあるのは、採用後の育成のほうだ。「研修プログラムの内容を見直す」が34.6%で最多となり、「育成期間が短期化する」も14.7%あった。一方で、「わからない」が32.4%、AIの影響を人材・採用戦略に反映している企業は6.5%にとどまる。多くの企業が、まだ様子を見ている段階だという。

見通しの面では、声が割れている。日経ビジネスとリクルートマネジメントソリューションズが2026年2月に人事担当者779人へ行った調査では、「AI活用が進むと新卒採用人数は減る」と見る人が、約4割にのぼった。

現在の実態と、先行きへの見方の間には、ずれがある。「変わるかもしれない」という予感が先に広がり、若手をどう育てるかの設計図は、まだ描かれていないように思われる。

「成長の実感」という、もうひとつの問い

古屋さんが所属するリクルートワークス研究所では、「生成AI時代の成長論」という研究プロジェクトも進んでいる。AIによって業務の効率は飛躍的に高まる。その一方で、試行錯誤を重ねながら熟達していく機会が減り、成長のあり方そのものが変わりつつあるのではないか、という問題意識に立つものだ。

この問いは、『ゆるい職場』の問いと、不思議なほど響き合う。

負荷が下がることで、成長を実感しにくくなった職場。AIが下書きや調べものを肩代わりすることで、試行錯誤の機会が減るかもしれない職場。理由は違っても、若手が「自分は成長できているのか」を実感しにくくなるという点で、似た不安を生みうる。

もちろん、AIは若手の成長を奪うだけの存在ではないだろう。使い方次第で、学びを加速させる道具にもなる。ただ、道具が変わるたびに、「成長した」と実感できる場面を、誰がどうつくるのかという問いは、残り続ける。

不安を、ひとりで抱えさせない

では、AIが加わった時代に、若手や学生を支える側として、何ができるのだろうか。

私は、「続けていること」と「納得していること」は別のものだと思っている。これは若手に限らず、どの世代にも言えることだ。表面的には順調に見えても、本人の中では、静かな違和感が積もっていることがある。

AIは、答えを出すことが得意だ。しかし、自分が何を大切にして働きたいのか、何に納得できるのかを言葉にすることは、その人自身にしかできない。このサイトのTuningで綴ってきた「自分の音を聴く」という営みは、AI時代の学生や若手にとって、むしろ重みを増しているのではないかと思う。

そして、その言葉にする過程には、急かさず、答えを先回りせず、ただそばで聴く存在が欠かせない。Sessionで綴った、寄り添うということの意味は、世代が変わっても、道具が変わっても、変わらないはずだ。

世代を越えて学び続けることの大切さ

『ゆるい職場』は、4年前の本だ。しかし、そこで投げかけられた問いは、古びるどころか、「静かな退職」や「AI時代の成長」といった新しい言葉をまといながら、続いている。古屋さんは、その問いを、形を変えながら問い続けている研究者なのだと思う。

ミドルシニアの節目も、学生から社会への節目も、根っこにある揺らぎは、きっと同じところでつながっている。世代を越えて学び続けることの大切さを、2冊の本を通じて、あらためて感じている。

Ensembleというカテゴリでは、これからも、こうした世代を越えた視点を紹介していきたい。


参考:古屋星斗『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社、中公新書ラクレ、2022年)/古屋星斗『あの若手はどうして辞めないのか 変わる社会と変わらない若者の本音』(朝日新聞出版、朝日新書、2026年)/リクルートワークス研究所「【特別調査】人口減少・AI時代の新卒採用と育成」(2026年6月)/日経ビジネス「『AIで新卒採用減』4割 人事担当779人アンケート」(2026年)

かず / Kazu キャリアコンサルタント

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